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成熟期にあるスマホゲーム市場の現状を打開すべく、コロプラでは中期経営方針として、「海外市場への積極展開」「国内IPの活用」「新しいUXの提供」の3つの柱を掲げています。
コロプラのさらなる成長を実現するには、安定した財務基盤が不可欠。コロプラでは財源の一部を運用し、投資育成事業を行うことで財務基盤を強化してきましたが、このたびタイミー株売却により、多額の営業利益を生み出しました。コロプラネクストの取締役として投資育成事業を管掌するCFOの原井に、投資育成事業の狙いと、中長期の展望を聞きました。

株式会社コロプラ 取締役 上席執行役員 CFO 株式会社コロプラネクスト・株式会社Brilliantcrypto 取締役
- 原井 義昭
- 大学在学中に公認会計士試験に合格。2011年に新卒で有限責任監査法人トーマツに入所し、ベンチャー・中堅企業の株式公開支援業務や上場企業の会計監査業務に従事。2015年にコロプラに中途入社。2018年12月より取締役に就任し、コーポレート本部、GameFi事業準備室などを管掌。2019年に上席執行役員・CFOに就任し、経営管理部、コーポレートデザイン室など幅広く管掌。グループ会社のコロプラネクストとBrilliantcryptoの取締役も兼任する。 
CFOとして、経営に関わるバックオフィスのあらゆる業務を管掌
まずは、これまでの略歴と、現在CFOとして担っている役割を教えてください。
大学3年生のときに公認会計士の試験に合格し、2011年に新卒で有限責任監査法人トーマツに入所しました。現在、私が管掌している投資育成事業にも通じるのですが、トーマツでは主に企業が上場するまでのIPO支援の仕事をしていました。
創業間もないベンチャーから何十年と続く大企業まで、トーマツでは13社ほど担当していたのですが、そのうちの1社にコロプラがありました。当時のコロプラは会社を訪問するたびに、新規タイトルや新しい取り組みの話が出るなど、急激に変化している印象でした。そうしたコロプラの「挑戦的な文化」に魅力を感じ、2015年に入社しました。
2015年というと、ベンチャーだったコロプラが急成長を遂げた時期ですね。
2014年7月にリリースされた『白猫プロジェクト』(以下、『白猫』)の売上げがどんどん伸びていき、それにともない急激に人が増えていた時期です。私の入社時には社員数4~500名規模になっており、「これから組織化が必要」というタイミングでした。振り返ると、ベンチャーが大きくなる過程のとても活気のある時代でしたね。
最初は経理の仕事をしていたのですが、「今後はグループ展開を含めて新規分野への挑戦、開発運営の強化していこう」という方針になり、グループ会社のM&Aを行う必要もあって経営企画部の立ち上げに携わりました。
その後、取締役CFOに就任し、経理、IRをはじめ、総務、人事、広報、GameFi事業準備室など、幅広く管掌しています。同時にグループ会社のBrilliantcryptoとコロプラネクストの取締役を兼任しています。
成熟期に入ったゲーム市場の現状と未来予測
コロプラの成長を見続けてきた原井さんから見て、近年のエンタメ市場の変化をどう捉えていますか?
ここ十数年のエンタメ市場の変化は、iPhoneという新たなデバイスの登場が大きく影響しました。年々ハードウェアが進化したことで、ゲームや動画配信などのエンタメ市場も伸びていったわけですが、ハードウェアの進化が行きつくところまで行ってしまい、スマホを機種変更してもワクワクしなくなりましたよね。スマホに代わる新たなデバイスが出てこないことで、市場全体が成熟期に入っています。
スマホゲーム市場に関しては、現在、およそ1.3兆円の国内市場とされていますが、ここ何年かは横ばいが続いています。一方で、日本市場に参入する中国や北米のゲーム会社が増えていますし、10年ほど前からコンシューマーゲーム会社もスマホゲームに注力しています。市場が成熟する中で、さらに競争が激しくなっているのが現状です。
しかし、海外市場に目を移すと、まだまだ伸びしろがあります。海外には発展途上の国も多く、インドやインドネシアといった国々のモバイル市場が伸びています。また、ゲームというと、日本ではNintendo Switchやスマホゲームが主流になりますが、海外ではPCゲームの市場がかなり大きく、今なお成長しています。そうしたところにもチャンスがあるのではないかと考えています。
中期経営方針を実現するための投資育成事業の役割
これまでコロプラでは、あえて3、4年先の中期経営方針を立ててこなかったそうですが、2024年から中期経営方針を掲げています。どういった背景があるのでしょうか?
これまでのスマホゲーム業界は、とにかく変化が目まぐるしく、その中でいかに多くの新規タイトルを出すかが勝負どころでした。そのため中長期の経営方針を立てるより、直近の課題に議論を集中させていたという背景があります。
しかし、現在の開発環境は様変わりし、『白猫』を開発した頃に比べて開発費が大きく高騰し、開発期間も3年以上を要するようになっています。そうすると、多くの新作は作れませんし、3年後のことを考えてゲームを作らなければいけません。
当社が作れるのは年間3~5本ですから、注力するタイトルを決めて経営資源を投入し、時間をかけて開発しなければいけない状況です。毎年、役員が集まって役員合宿を行っているのですが、そうした開発環境の変化を踏まえ、入念に議論して作ったのが今回の中期経営方針になります。
中期経営方針では、「海外市場への積極展開」「国内IPの活用」「新しいUXの提供」の3つの柱を掲げています。コロプラの財務を担う立場から、どのように実現していこうと考えていますか?
直近では、生成AIを活用した『神魔狩りのツクヨミ』、少し前はブロックチェーン技術を活用した『Brilliantcrypto』など、当社は他社に先駆けて新たな技術に挑戦することを大事にしています。
しっかりした財務基盤がないと、多くの打席に立てないですし、どうしでもアイデアが小さくまとまりがちです。挑戦のアクセルを安心して踏めるような財務基盤は、常に持っておきたいと考えています。
常に一定程度のキャッシュを確保し、それを超える分は株主様に還元していく方針ですが、確保したキャッシュで財務の運用を行っています。財務の運用で数億円の運用益を出し、そこでも利益を創出することで、安定した財務基盤を維持するようにしています。
新たな領域に挑戦し続ける、コロプラの進化と強み
コロプラが成長を続けるための“強み”は、どういったものだと思いますか?
スピーディーに新しい領域にシフトできることが、当社の強みだと思います。
コロプラが東証マザーズに上場したときも、当時はガラケーの市場がかなり大きかったのですが、次に来るのはスマートフォンアプリだと判断し、大きく舵を切りました。いち早くスマホゲーム市場に参入したことで、長年の運用ノウハウが蓄積され、それも当社の強みになっています。
VRが登場したときも、スマホの次はVRの時代になることを想定し、2015年に100億円規模の「Colopl VR Fund」を立ち上げました。それが今の投資育成事業の礎になっています。
その後もブロックチェーン技術に挑戦したり、生成AIをゲームに取り入れるなど、こんなにいち早く新たな技術に着目し、スピーディーにかたちにする会社もないと思います。

国内外のさまざまなベンチャーを支援する投資育成事業の狙い
コロプラネクストの投資育成事業を管掌されていますが、あらためて狙いをお聞かせください。
当社は、いち早くスマホゲーム市場に参入したことで成功したわけですが、別の見方をすると、ゲームしかやってこなかったわけです。スマホアプリはゲームだけではなく、動画配信や金融など、今ではさまざまなサービスが活況を呈しています。いち早くスマートフォンによる社会変化に着目した当社が、もしゲーム以外の事業にも投資していれば、もっと成長できたのではないかという反省があります。
そのため、2015年から始まったVRへの投資では、ゲームに限らず、社会への影響が大きい教育やインフラなど、幅広く投資する方針でした。
ゲームに限定せず投資することが、投資育成事業の原点だったのですね。
もちろんゲームに活かすための最新技術の情報収集という観点もありましたが、それ以外の部分でもしっかりリターンを得ていこうという意図がありました。VRへの投資が始まった2015年にグループ会社のコロプラネクストを設立し、業種業態を問わず、幅広くスタートアップへの投資を開始しました。
ゲーム業界に投資するだけでは、ボラティリティが大きいですし、それ以外のリターンのチャンスを逃してしまいます。もともとコロプラがエンタメ事業でチャレンジするためのポートフォリオの一環として投資育成事業があるわけですから、しっかり収益を得ていくことが狙いです。
約10年にわたって投資育成事業を行ってきたことで、投資の累計金額が大きくなり、グループ全体に与える影響も大きくなってきたため、今では会計上のセグメント事業をエンタメ事業と投資育成事業の二本柱としています。
投資先を見ると、プラットフォーム事業、DX事業、医療テックなど、かなり幅広く投資されています。どのような基準で投資先を選定されているのでしょうか?
基本的に、我々がまったくわからない領域には投資しないようにしています。そのため、当社の知見が活かせるB2Cの事業が、比較的多くなっています。B2Bの事業の場合も、お客様がコンシューマー向けの事業会社であるなど、我々が感覚的にわかることが前提になります。
スタートアップへの投資はリスクも大きいと思います。中には実情が伴わない会社もあるかもしれません。確信を持って投資するために、どういったところを見ていますか?
細かく言うと、いくつもあります。まず、信頼できる経営陣かどうかというところで、起業家の人となりや経営陣の経歴は必ず見るようにしています。
他には、どういったベンチャーキャピタルが投資しているかも確認します。たとえば、業界最大手のベンチャーキャピタル(以下、VC)が投資していた場合、投資先のスクリーニングが厳格だったりするので、信頼できる経営陣であることがわかります。大手の投資が信用となり、より投資が集まりやすくなるという観点もあります。
また、本当に優れたサービスなのかは使ってみないとわからないものなので、実際に当社で使ってみるようにしています。たとえば、CSに関するサービスを提供する企業があれば、当社のCS部門に利用してもらって感想を聞いたり、社内のエンジニアに技術的な意見を聞いたりして投資を判断します。
国内に限らず、韓国、アメリカ、ヨーロッパ、東南アジアなどグローバルに投資されていますが、どういった意図がありますか?
VRの投資を始めたとき、Metaをはじめとする北米の会社がトレンドだったという背景があります。今だとAIの分野で米国と中国の企業が激しく競争していますが、技術革新はグローバルで進んでいくものなので、当初から日本だけでなく、世界を見据えて投資していく方針でした。
シード期のスタートアップに投資し、最大のリターンを得る
コロプラネクストでは、これまで170社以上に投資されていますが、特に印象深かった事例を教えてください。
かなり投資期間が長かったタイミーへの投資です。
実はタイミーを創業した小川嶺社長に初めて投資した2018年当時、彼はまだ大学生でした。当社が渋谷の道玄坂で運営していたインキュベーション施設に出入りしており、そこで当社のメンバーが相談を受けたり、事業アイデアの壁打ちをやったりしていたのです。
当時、20代の若手起業家を対象とした起業家育成ファンドを運営していたのですが、中でも彼の熱意と事業アイデアが際立っていたので投資を決めました。
タイミーは2024年7月に東証グロースに上場を果たしました。シード期に投資したことで、非常に大きなリターンが得られましたね。
IRR(投資の収益率を測る指標)では、ファンド全体でおよそ15%、シードの企業の個別IRRだと50%以上を目安の目標にしていますが、タイミーの場合、126%という大きな数字になります。最終的におよそ40倍になりました。タイミーの上場時とロックアップ解除後の2度にわけて株式を売却したのですが、合わせて20億円ほどの営業利益が出ました。
投資育成事業を10年間やってきて、一番の成果になります。
大きな成果を出したことで、どのような効果がありましたか?
金額以上に実績ができたことが大きいです。
日経新聞の2024年のVCのIPO推計利益ランキングでコロプラネクストが10位に入りました。また、グローバルのCVC世界トップ100社のランキングにおいても、日本から選出された5社では、ソニー、ヤマハ、NTTといった名だたる大企業が入ったのですが、そのうちの1社に当社が選ばれました。
今は「資金さえ調達できればどこでもいい」というわけではなく、起業家の方がベンチャーキャピタルを選ぶ時代になっています。こうした実績ができると、起業家から信頼されやすくなり、いい話が集まりやすくなります。そうした意味でも、ホームランが一本出た実績は、今後の投資育成事業にとって大きかったですね。
投資育成事業の目的は営業利益、シナジーは副産物
投資先の技術や知見をコロプラの事業に活かすといった点では、どういったシナジーがありますか?
海外のゲームファンドに投資しているので、たとえばコロプラが北米向けのゲームを検討する際、当社のディレクターにゲームファンドの担当者を紹介し、北米のゲーム市場についてヒアリングするといったことをしています。
ただし、投資先とのシナジーは、あくまで副産物だと考えています。CVCにありがちなのですが、投資を通すために「事業とのシナジーがある」といった説明をすることがあり、ともすると言い訳になってしまいます。
我々もVRに投資していたとき、事業とのシナジーを期待していた時期がありますが、やはり投資育成事業はリターンが得られないと、うまく立ちいきません。たとえシナジーがなさそうな会社であっても、まずはリターンを念頭に置いて投資し、副産物としてシナジーがあればいい、という考えに変わってきました。
逆に投資を受ける側から見たとき、どんなシナジーが考えられますか?
経営面のシナジーが期待できると思います。コロプラは2008年の設立から短期間でプライム上場を果たし、ベンチャーから急激に成長した会社です。それに伴い社員数も増え、組織化が求められたわけですが、ベンチャーの多くが同様の課題に直面するものです。
「社員数50人の壁」、「100人の壁」、「300人の壁」とよく言われますが、会社が成長する各段階で、解決しなければいけない経営課題も変わってきます。起業家が直面するこれらの課題に対し、我々が培ってきた経営ノウハウからアドバイスできることが、もっとも大きなシナジーだと思います。
たとえば、ベンチャー企業が初めてCMを出すとき、いつどこにCMを打つべきか、費用対効果の考え方等これまでのコロプラの経験を参考にしてもらうこともできますし、当社がこだわってきたユーザーコミュニケーションやUIの見せ方についてアドバイスすることもできます。そうした部分に価値を感じてもらえるとうれしいですね。
今後は、起業のアーリーステージに積極的に投資していきたい
今後、注力したい投資領域やテーマはありますか?
以前はVRというテーマを決めていたこともありましたが、今では、そのときどきで柔軟に投資したほうが、リターンが得やすいと考えています。そのため、特定の投資領域は定めていませんが、たとえば、コロナ禍のときはリモートワークの社会変化を踏まえた事業に積極的に投資したり、今だとAIを活用したサービスへの投資を増やすなど、そのときどきの社会変化に応じたテーマがあります。
投資領域ではありませんが、会社のステージで投資先を定める場合もあります。
たとえば、タイミーの創業直後に投資したように、いわゆる「シード期」と呼ばれるタイミングや、プロダクトができたばかりで調達する「シリーズA」というタイミングです。その後スケールアップし10~20億円ほど売上が出た頃に調達する「シリーズB」あたりからミドル・レイターステージとされるのですが、当社はここ2、3年、シリーズBの段階で投資することが多く、アーリーステージにはあまり投資をしてきませんでした。
今回、タイミーの株式売却によって大きな実績ができたことで、財務的な安定性も増しましたので、さらに投資件数を増やすためにも、より上流のアーリーステージへの投資を増やしていきたいと考えています。
最後にこの記事を読む方へのメッセージも含め、CFOとして、コロプラをどんな方向に導いていきたいですか?
さまざまなエンタメの中でもゲームは、日本が世界で勝負できる数少ない領域だと思っています。中期経営方針で「海外市場への積極展開」と、世界に通用する「国内IPの活用」を掲げているように、グローバルの中で存在感を発揮できる会社に成長させていきたいと思っています。
これまでは国内でヒットしたタイトルをグローバルに輸出するというかたちでしたが、これからは最初から世界を見据えて事業を展開していく方針です。その中で位置情報などの当社らしい技術をさらに磨き、日本を代表するゲーム会社になることを目指しています。
経営陣一同、コロプラを再び成長させていく所存ですので、引き続き応援、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。
インタビュー・執筆
大寺 明




